徳島県神山町:移住者が増え続ける、”創造的過疎”の町

徳島県の中部に位置する神山町は、豊かな自然と伝統文化が息づく、静かで美しい町です。近年では、IT企業のサテライトオフィス進出や移住者の増加など、注目を集める「創造的過疎」の取り組みが活発化しており、都会とは異なる魅力的な暮らし方を求める人々から熱い視線を浴びています。本記事では、神山町の魅力や特徴、そして今後の展望について詳しく解説します。

概要

神山町は、徳島県の中部、吉野川の南側に位置する町です。町の中央を東西に横断する鮎喰川流域には、豊かな農地と集落が点在し、周囲を300〜1,500m級の山々が囲んでいます。総面積は173.30㎢で、徳島県内24自治体の中で9番目に大きい町です。人口は約4,200人(2024年8月1日現在)と、近年減少傾向にあります。

自然

神山町は、四国山脈の東部に位置し、町域の約86%を山々が占めています。山々に囲まれた自然豊かな環境は、清らかな水源を生み出し、多様な動植物が生息しています。

地理

神山町は、四国山脈の東部に位置し、全面積の約83%が山地です。町の中央を鮎喰川が蛇行して流れ、その周辺には鬼籠野川、神通谷川、北谷川などの谷川が流れ込み、美しい渓谷美を作り出しています。

  • 山: 東竜王山、西竜王山、雲早山、東宮山、焼山寺山、二秀峯、高根山、砥石権現
  • 川: 鮎喰川、鬼籠野谷川、広石谷川、上角谷川、野間谷川、高根谷川、左右山谷川、喜来谷川、神通谷川

気候

神山町の年間平均気温は約14℃で、年間降水量は2,100㎜前後です。季節によって寒暖の差が大きく、冬には数センチメートルの積雪がある地域もあります。

植生

神山町には、杉や檜などの植林された森林が多く見られます。また、「日本一のシダレザクラの名所にする」という目標のもと、神山町発祥の「カミヤマシダレザクラ」が国道や県道沿いに多く植樹され、「ゆうかの里」などの観光名所となっています。さらに、ミツバツツジやシャクナゲなどの自然植生群落も見られます。町南西部の柴小屋自然林や雲早山頂上付近に広がるブナ、カエデ類の高木、ヒメシャラなどの自然林は、清流鮎喰川の水源となっています。

歴史

神山町は、古くから人々が集い、粟などの穀物を生産して生活していたと考えられています。神領地区には、日本神話に登場する穀類の祖神である大冝都比売命(おおげつひめのみこと)を主祭神とする上一宮大粟神社があり、このことから、神山町が古くから重要な役割を担っていたことが伺えます。

江戸時代から明治時代にかけては、農民の娯楽として阿波人形浄瑠璃が盛んに上演され、その舞台を飾った襖絵は1,400点ほど現存しています。

沿革

  • 1955年(昭和30年)3月31日 – 阿野村、鬼籠野村、上分上山村、下分上山村、神領村が合併し、神山町が誕生しました。
  • 1965年(昭和40年)11月20日 – 神山町章が制定されました。
  • 1975年(昭和50年)5月1日 – 町民憲章が制定されました。

行政・議会

町役場

  • 所在地: 徳島県名西郡神山町神領字本野間100番地

町長

神山町は、現在、河野雅俊氏が町長を務めています。

衆議院

神山町は、衆議院議員選挙では徳島1区に属しています。

人口

神山町の人口は、近年減少傾向にあり、2005年には約6,900人でしたが、2020年には約4,600人まで減少しました。これは、高齢化や若者の流出などが原因と考えられています。しかし、近年では移住者の増加によって人口減少に歯止めがかかりつつあります。

経済

神山町は、農業が主要産業です。特産品として、すだちや日扇(ヒオウギ)が有名です。近年では、IT企業のサテライトオフィス誘致や移住促進政策などが進められており、経済活性化が進んでいます。

農業・特産物

  • すだち: 神山町は、徳島県内でも特にすだちの生産が盛んであり、県内全体の生産量の24%を占め、日本一です。
  • 日扇(ヒオウギ): 神山町では、京都の祇園祭や大阪の天神祭などに飾る日扇(ヒオウギ)の大半が生産されています。日扇の葉の並びが扇に似ていることから、祇園祭では疫病を避ける縁起物として珍重されています。

観光

神山町は、豊かな自然と伝統文化に触れられる観光地として知られています。

公園

  • 徳島県立神山森林公園(イルローザの森): 広大な敷地内に、遊歩道やキャンプ場、宿泊施設などが整備されています。
  • 農村ふれあい公園: 自然と触れ合いながら、ゆったりと過ごせる公園です。

名所

  • 雨乞の滝(日本の滝百選): 落差約50mの雄大な滝です。
  • 神通滝: 渓谷美豊かな滝です。
  • 上臈ヶ滝: 伝説が残る美しい滝です。
  • 出会い滝: 2つの滝が合流する珍しい滝です。
  • 神山温泉: 温泉街があり、日帰り温泉や宿泊施設が充実しています。
  • 道の駅温泉の里神山: 温泉やレストラン、お土産などが楽しめる道の駅です。
  • 粟飯原家住宅: 江戸時代の豪農の屋敷が保存されています。
  • 寄井商店街: 古き良き時代の街並みが残る商店街です。
  • ゆうかの里: シダレザクラの名所です。
  • 小野さくら野舞台: 春には桜が咲き乱れる、美しい場所です。

社寺・史跡

  • 焼山寺(四国八十八ヶ所12番札所): 四国八十八ヶ所霊場のひとつです。
  • 悲願寺: 多くの伝説が残る古刹です。
  • 神光寺: 山間の静寂の中に佇む寺院です。
  • 真光寺(阿波北方二十四輩霊場2番札所): 阿波北方二十四輩霊場のひとつです。
  • 明王寺: 歴史を感じさせる寺院です。
  • 神宮寺: 美しい庭園がある寺院です。
  • 妙法寺(新四国曼荼羅霊場72番札所): 新四国曼荼羅霊場のひとつです。
  • 上一宮大粟神社(新四国曼荼羅霊場73番札所): 新四国曼荼羅霊場のひとつです。
  • 鬼籠野神社: 古くから地元住民に親しまれてきた神社です。
  • 天岩戸立岩神社: 神秘的な雰囲気漂う神社です。
  • 船盡神社: 海上安全を祈願する神社です。
  • 宇佐八幡神社(辰の宮の大クス): 樹齢約1,000年の巨木がある神社です。
  • 二ノ宮八幡神社: 静かな森の中に佇む神社です。
  • 左手宮八幡神社: 歴史を感じさせる神社です。
  • 十二社神社: 神山町の氏神様を祀る神社です。
  • 稲飯神社: 豊穣を祈願する神社です。

キャンプ場・ロッジ

  • 岳人の森: 自然に囲まれたキャンプ場です。
  • コットンフィールド: 広々とした敷地を持つキャンプ場です。
  • 軽井沢レジャーランド: 宿泊施設や遊具施設が充実したレジャー施設です。

催事

  • 江田の菜の花まつり: 春には、菜の花畑が一面に広がり、美しい風景を楽しむことができます。
  • 神山温泉まつり: 温泉街を盛り上げるイベントです。
  • 神山森林公園 紅葉まつり: 秋には、紅葉が美しく、多くの人が訪れます。
  • 大久保いちょうまつり: イチョウ並木が美しい、秋のイベントです。
  • 鬼籠野 灯りのオブジェ: 冬には、幻想的な灯りが飾られます。
  • 阿川梅の里 梅まつり: 春には、梅の花が咲き乱れ、甘い香りに包まれます。
  • 4K徳島映画祭: 映画を通して、神山町の魅力を発信するイベントです。
  • 阿波踊り: 神山町でも、阿波踊りが開催されます。

出身有名人

  • 阿部雅信 (実業家、競走馬馬主)
  • 谷知子 (国文学者、フェリス女学院大学教授)
  • 佐々木裕司 (ラグビーレフリー)
  • 上野優華 (歌手、女優)
  • 山中賢次 (元プロ野球選手)

その他

神山町では、地域住民が主体的に活動し、町を活性化させるための様々な取り組みが行われています。

アドプト・プログラム

神山町では、1988年に日本で初めて、沿道の住民が区間を決めて道路の清掃を行う「アドプト・プログラム」を導入しました。現在では、21団体が参加し、地域住民の手によって町がきれいになっていると言えるでしょう。

神山アーティスト・イン・レジデンス

1999年にスタートした「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」は、国内外から芸術家を招聘し、創作活動を支援するプログラムです。このプログラムを通じて、神山町は芸術文化の振興を図るとともに、地域住民との交流を促進しています。

光ファイバー網

神山町は、2004年に町と佐那河内村が連携して、山間部の情報格差や難視聴対策としてケーブルテレビ兼用の光ファイバー網を整備しました。町内全戸に回線が引かれており、都市部と変わらない高速通信環境が整備されています。

神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス

神山町は、光ファイバーを用いた高速通信網を整備していることから、都市部以上の通信環境があり、多くのIT企業がサテライトオフィスを設置しています。また、仕事と生活を両立できる環境として、宿泊施設「WEEK神山」などが整備されています。

交通

神山町は、公共交通機関が限られているため、車でのアクセスが便利です。

空港

町内に空港はありません。最寄りの空港は徳島空港ですが、神山町と徳島空港を直接結ぶ交通機関はありません。徳島空港から神山町までは、車で約70分かかります。

鉄道

町内に鉄道はありません。最寄りの駅はJR四国徳島線鴨島駅ですが、鴨島駅から神山町までは公共交通機関がなく、車でのアクセスとなります。鴨島駅から神山町までは、車で約30分かかります。

路線バス

徳島バスが、徳島市と神山町を結ぶ路線バスを運行しています。徳島駅から神山町までは、バスで約1時間程度かかります。

道路

  • 一般国道: 国道193号、国道438号、国道439号
  • 県道: 徳島県道20号石井神山線、徳島県道21号神山鮎喰線、徳島県道31号鴨島神山線、徳島県道43号神山川島線、徳島県道253号山川海南線

地域

神山町は、阿野、鬼籠野、上分、下分、神領の5つの地区に分かれています。

教育

神山町には、小学校2校、中学校1校、高等学校1校があります。

  • 高等専門学校: 神山まるごと高等専門学校
  • 高等学校: 徳島県立城西高等学校神山分校
  • 中学校: 神山町立神山中学校
  • 小学校: 神山町立広野小学校、神山町立神領小学校

郵便

町内には、今井郵便局と広野郵便局の2つの集配郵便局があります。このほか、川又郵便局、神山郵便局、阿野郵便局、鬼籠野郵便局、寄井郵便局が置かれています。

消防

神山町は、名西消防組合に属しており、神山消防署があります。

関連項目

  • 全国市町村一覧

参考文献

  • 小学館辞典編集部 編『図典 日本の市町村章』(初版第1刷)小学館、2007年1月10日。ISBN 4095263113。
  • 『神山プロジェクト 未来の働き方を実験する』日経BP社 2014年3月6日、初版第一刷。
  • 『神山プロジェクトという可能性〜地方創生、循環の未来について〜』廣済堂出版 2016年8月15日、初版第一刷。

脚注

  1. 湯浅安夫「神山町の伝説」『阿波学会紀要』第46号(総合学術調査報告 神山町)2000年3月
  2. 『図典 日本の市町村章』p.191
  3. “山間の村に最先端の芸術家やIT起業家が続々移住?“創造的過疎”を掲げて地域再生を図る神山町の先見性”. DIAMOND online (2013年7月2日). 2013年7月7日閲覧。
  4. “サテライトオフィス 地方自治体が積極誘致 過疎化や高齢化、歯止め期待”. msn産経ニュース. (2012年5月10日). https://web.archive.org/web/20120510200232/http://sankei.jp.msn.com/life/news/120510/trd12051007530002-n2.htm 2013年7月7日閲覧。
  5. “田舎で起業ラッシュのなぜ”. 日経ビジネスONLINE (2012年2月24日). 2013年7月7日閲覧。
  6. “四国の山里で働くという選択——IT企業が惹きつけられる町・徳島県神山町”. あしたのコミュニティラボ (2012年12月19日). 2013年7月7日閲覧。
  7. 神山町に「次世代高専」設立へ 2023年開校目標日本経済新聞ニュースサイト(2019年6月21日)2019年10月2日閲覧
  8. 19年ぶり新設の高専校長に聞く:神山まるごと高専 大蔵峰樹氏/16歳から起業精神育成『日本経済新聞』朝刊2022年11月1日(教育面)2022年11月6日閲覧
  9. 神山町の創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト」
  10. 若宮消費者相が就任後初の徳島訪問 神山町視察で意見交換も NHKニュース 2021年11月24日配信 2021年11月25日閲覧
  11. 若宮健嗣のTwitter投稿 @wakamiya7788 2021年11月24日配信 2021年11月25日閲覧
  12. 神山町の特産品 – 神山町役場
  13. 神山の多様性を体感する宿、「WEEK 神山」オープン!四国大陸(2015年7月29日配信)2022年11月6日閲覧
  14. 令和5年4月から神山町の公共交通が変わります – 神山町、2022年5月21日閲覧

外部リンク

  • 公式ウェブサイト
  • 神山町 (kamiyama.kanko) – Facebook
  • 神山町 (@townkamiyama) – X(旧Twitter)
  • イン神山
  • 総合学術調査報告 神山町阿波学会紀要第46号(2000年3月)
  • 神山町に関連する地理データ – オープンストリートマップ
  • ウィキトラベルには、神山町に関する旅行ガイドがあります。
  • 地図 – Google マップ

神山町についてのクイズ

神山町はどのような特徴を持つ町ですか?

神山町は、徳島県の中部に位置し、豊かな自然と伝統文化が息づく町です。近年では、IT企業のサテライトオフィス進出や移住者の増加が注目され、特に「創造的過疎」を掲げて地域の活性化を目指しています。移住者が増え続ける理由には、都会とは異なる魅力的な暮らし方や自然環境が大きく影響しています。また、地域住民の取り組みやインフラ整備も進んでおり、サテライトオフィスが整備されていることから、高速通信環境が整っている点も、移住者にとって魅力的な要因となっています。

神山町の面積はどのくらいですか?

神山町の総面積は173.30㎢で、徳島県内の24自治体の中で9番目に大きい町です。この広さの中に、多様な自然環境や歴史的な文化財が存在し、地域の特産物や観光地も数多くあります。しかし、人口は約4,200人と比較的少なく、近年は人口減少傾向にあります。自然環境を活かした農業や観光業が町の主要産業であり、地域住民が主体となった活動を通じて町を活性化させる取り組みが進められています。

神山町はどのような気候ですか?

神山町の年間平均気温は約14℃で、降水量も年間約2,100㎜前後と比較的多いです。気候は温暖から冷涼にかけて変化し、特に冬には寒暖差が大きく、地域によっては数センチメートルの積雪が見られることもあります。季節の変化が明確で、自然環境が豊かなため、春や秋の風景が非常に美しいと評判です。このような気候は、神山町の特産品や観光地の魅力向上に寄与しています。

神山町の特産品として知られているものは何ですか?

神山町は、すだちの生産が盛んであり、日本一の生産地として知られています。特に、徳島県全体のすだちの生産量の24%を占めており、その品質や味の良さから多くの消費者に親しまれています。また、日扇(ヒオウギ)も有名で、特に京都の祇園祭や大阪の天神祭に使用されます。これらの特産品は地域経済の重要な一部であり、移住者や観光客にとっての魅力ともなっています。

神山町の主な観光名所はどこですか?

神山町には多くの観光名所がありますが、特に「雨乞の滝」は日本の滝百選にも選ばれており、落差約50mの雄大な滝です。美しい自然環境とあいまって、多くの観光客が訪れるスポットです。また、神山温泉やさまざまな滝も観光名所として知られています。これらの観光資源は神山町の文化や自然を体感できる貴重な場所であり、地域活性化の一環として重要な役割を果たしています。

神山町の歴史的な出来事はどれですか?

神山町は1955年に阿野村、鬼籠野村、上分上山村、下分上山村、神領村が合併して誕生しました。この合併は地域の統合や発展を目指したもので、以降も地域住民による文化や伝統が受け継がれています。江戸時代から明治時代には、阿波人形浄瑠璃が盛んに上演され、その舞台背景には神山町の歴史が深く根付いています。このような背景が、現在の神山町における文化の豊かさにつながっています。

神山町と最寄りの鉄道駅の関係はどうなっていますか?

神山町内には鉄道はなく、最寄りのJR四国徳島線鴨島駅からのアクセスが必要です。しかし、鴨島駅と神山町を結ぶ公共交通機関は存在せず、訪問者は車でのアクセスが必須となります。鴨島駅から神山町までは車で約30分程度かかり、鉄道を利用したアクセスは難しいのが現状です。このため、神山町を訪れる際は、周辺道路の利用が一般的となっています。