福島県双葉郡川内村:自然と文化が息づく、復興に向かう高原の村

福島県双葉郡川内村は、阿武隈高地の中央部に位置する、標高500~600メートルの高原が大部分を占める村です。豊かな自然に恵まれ、古くから人々が暮らし、独自の文化を育んできました。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受け、全村避難を余儀なくされましたが、現在では復興に向けた歩みを力強く進めています。

概要

川内村は、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響により、全村が放射能汚染の可能性がある地域となりました。2011年3月17日以降、仮役場を郡山市にあるビッグパレットふくしま内に設置していましたが、2012年4月に役場機能を村に戻しました。2016年6月14日に全域の避難指示が解除され、現在では多くの住民が帰還し、活気を取り戻しつつあります。

地理

川内村は、阿武隈高地の最高峰である大滝根山(標高1,193メートル)をはじめとする起伏の多い山岳に囲まれた、高原性の盆地です。村の中央を貫流する木戸川とその支流によって、大小24の集落が形成されています。

隣接する自治体

  • いわき市
  • 田村市
  • 双葉郡
    • 大熊町
    • 富岡町
    • 楢葉町

地形

川内村は、大滝根山東斜面に位置し、東に傾斜する高原状地形を木戸川とその支流が浸食して谷を形成しています。村の地形は、谷に接する部分を除いては急な傾斜地がなく、標高700メートルを超える山地は東部と西部に分布しています。

  • 丘陵地: 谷に接する部分を除いては緩やかな傾斜地で、糠馬喰山(733メートル)・大津辺山(778メートル)などがあります。
  • 東部山地: 大鷹鳥谷山(794メートル)・鬼太郎山(750メートル)などがあり、富岡町・楢葉町に続く東斜面の傾斜は比較的緩やかですが、西斜面は急傾斜地になっています。
  • 西部山地: 大滝根山・高塚山(1,066メートル)・万太郎山(959メートル)など、比較的高い山々があり、大滝根山と万太郎山を結ぶ方向に平行な数段の平坦面が認められます。

地質

川内村の大地は、変成岩類、深成岩類、それらを部分的におおう未固結堆積物で構成されています。

  • 変成岩類: 黒雲母片岩、緑閃石・緑泥石片岩などがあります。
  • 深成岩類: 花崗岩、閃緑岩、かんらん岩などがあります。
  • 未固結堆積物: 粘土、砂、段丘礫、崖錐、火山灰などがあります。

気候

川内村は、寒暖の差が大きく、気温の年較差、日較差が大きい大陸性気候です。夏は冷涼で、8月を中心に30℃以上の真夏日もありますが、朝晩は15℃前後まで気温が下がるため、日較差が大きいです。冬は厳寒で、最低気温は毎年-10℃を下回ります。年間降水量は1,500ミリ程度で、福島県内では少ない方です。

自然

植物

川内村の森林は、イヌブナ、ブナ、ミズナラ、オオカノメキ、カエデ、シデなどにモミが混生した状態を示し、モミ・イヌブナ林区に分類されます。

  • 高塚山: サラサドウダン、アセビ、リョウブ、コヨウラクツツジ、レンゲツツジなどの低木林が発達しています。
  • 大鷹鳥谷山: ミズナラ、リョウブ林やクヌギ、コナラ林がみられます。
  • 大津辺山: ミズナラ林が発達しています。
  • 標高の低い地域: ホオノキ林、アカマツ林、アカマツ・イヌシデ林、コナラ・リョウブ林、コナラ林などが見られます。
  • 河川流域: コナラにイヌブナ、ヤマザクラ、アカシデ、モミ、クリなどを交えた林相が見られます。

動物

川内村は、豊かな自然環境に恵まれ、多様な動物が生息しています。

  • 哺乳類: イノシシ、ニホンザル、ニホンイタチ、タヌキ、ホンドギツネ、ニホンノウサギ、ムササビ、テン、ニホンリス、ネズミ類、アズマモグラ、ヒミズ類など
  • 鳥類: カケス、ホトトギス、エナガ、ヤマドリ、メジロ、ツツドリ、イカル、ウソ、ウグイス、カワラヒワ、キビタキ、シジュウカラ、タカ、ノスリ、コゲラ、フクロウ、アオバズク、ヒヨドリ、アカショウビン、カワセミ、カルガモ、マガモ、オシドリなど
  • は虫類: アオダイショウ、ヤマカガシ、シマヘビ、ニホンマムシ、ジムグリ、ニホンカナヘビ、トカゲなど
  • 両生類: イモリ、ニホンヒキガエル、ニホンアマガエル、ヤマアカガエル、ニホンアカガエル、トノサマガエル、ウシガエル、ツチガエル、カジカガエル、モリアオガエルなど。平伏沼は、モリアオガエルの生息地として天然記念物に指定されています。
  • 魚類: イワナ、ヤマメ、カジカ、コイ、フナなど
  • 昆虫類: ハッチョウトンボ、蝶類、水生昆虫など

人口

川内村の人口は、戦後から減少傾向にあり、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故後はさらに減少しました。しかし、近年は復興に向けた取り組みが進み、帰還者が増加しています。

人口
1970年 4,709人
1975年 4,308人
1980年 4,132人
1985年 4,020人
1990年 3,933人
1995年 3,797人
2000年 3,384人
2005年 3,125人
2010年 2,820人
2015年 2,021人
2020年 2,044人

産業

川内村の基幹産業は、農林業です。農業は、専業農家が激減し、婦女子、老齢者が主体となっています。経営形態は、米、葉タバコ、畜産、養蚕、高冷地野菜を組み合わせた複合経営がほとんどです。林業も、木材価格の低迷により、生産量と就労人口が減少傾向にあります。

歴史

川内村の歴史は古く、縄文時代から人々が生活していたことを示す遺跡が多数発見されています。中世には、岩城氏の領境の守りの村として機能し、戦国時代には神山城などが築かれました。近代には、山林の村として発展し、木炭生産で全国に名を馳せました。

原始・古代

  • 縄文時代早期の遺物: 糠塚G遺跡から出土した日計型押型紋土器など
  • 縄文時代前期: 下川内、田ノ入遺跡、上川内・大根森遺跡など
  • 縄文時代中期: 上川内・後谷地C遺跡など
  • 縄文時代後・晩期: 下川内・手古岡B・C遺跡、下川内・糠塚F遺跡など
  • 弥生時代: 明確な遺跡は確認されていない。
  • 古墳時代: 明確な遺跡は確認されていない。

中世

  • 鎌倉時代: 海道諸郡は鎌倉幕府の支配下に入った。
  • 南北朝時代: 海道には国人領主が成長した。
  • 戦国時代: 岩城氏の領境の守りの村となり、神山城などが築城された。

近代

  • 明治時代: 川内村が誕生し、山林引戻運動が成功した。
  • 大正時代: 木炭生産が盛んになり、日本一の生産地となった。
  • 昭和時代: 戦後、木炭需要の減少や木材価格の低迷により、産業構造転換が求められた。

東京電力福島第一原子力発電所事故の影響

2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故により、川内村は全村避難を余儀なくされました。事故の影響は大きく、住民の生活は大きく変化しました。しかし、近年は復興に向けた取り組みが進むと共に、多くの住民が帰還しています。

村に関係のある著名人

  • 秋元純一 (CGクリエーター)
  • 粟津則雄 (文芸評論家、美術評論家、詩人、フランス文学者、日本芸術院会員、いわき市立草野心平記念文学館長)
  • 遠藤雄幸 (川内村長、元川内村議会議員)
  • 草野心平 (詩人、川内村名誉村民)
  • 鐸木能光 (作家、音楽家)
  • 辻まこと (詩人、画家)
  • 芳賀啓 (地図研究家、エッセイスト)
  • 山下和正 (建築家、東京工業大学名誉教授)
  • 横田龍儀 (俳優)
  • 渡辺俊美 (音楽家、TOKYO No.1 SOUL SETのメンバー)

今後の展望

川内村は、自然と文化が豊かな村であり、復興に向けた歩みを力強く進めています。農業、林業、観光などの産業振興を図り、住民が安心して暮らせる村を目指しています。また、教育や文化、福祉の充実にも力を入れており、子供たちが将来を希望を持って生きられる、活力のある村づくりを目指しています。

脚注

  1. 図典 日本の市町村章 p50
  2. 東日本大震災:全町全村避難 福島8自治体、住民散り散り毎日新聞 2011年3月19日 10時14分(最終更新 3月19日 15時12分)
  3. “川内 過去の気象データ検索”. 気象庁. 2023年9月27日閲覧。
  4. 角川日本地名大辞典編纂委員会『角川日本地名大辞典 7 福島県』、角川書店、1981年 ISBN 4040010701より
  5. 日本加除出版株式会社編集部『全国市町村名変遷総覧』、日本加除出版、2006年、ISBN 4817813180より
  6. “定額給付金:「納税に振り替え」撤回 川内村謝罪へ”. 毎日新聞. (2009年3月21日). http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090321k0000m040139000c.html
  7. 福島第一原子力発電所事故の影響により運休していたが、2018年4月に運行が再開された。
  8. 以前のルートとは異なる(神俣駅を経由)。かつては復興支援バスとして小野新町 – 川内間のみの運行だったが、2017年10月のダイヤ改正により車庫のある上三坂まで延長された。
  9. 鈴木文彦「BUS★CONER」『鉄道ジャーナル』第46巻第8号、鉄道ジャーナル社、2012年8月、159頁。
  10. 川内で「無料巡回バス」運行開始 村民の足、企業が支援 – 福島民友、2017年04月04日 09時28分配信、同年5月12日閲覧
  11. “川内村における震災後の状況と復興に向けて”. 2021年3月11日閲覧。
  12. Harada, Kouji H.; Niisoe, Tamon; Imanaka, Mie; Takahashi, Tomoyuki; Amako, Katsumi; Fujii, Yukiko; Kanameishi, Masatoshi; Ohse, Kenji et al. (2014-03-11). “Radiation dose rates now and in the future for residents neighboring restricted areas of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 111 (10): E914-E923. doi:10.1073/pnas.1315684111. ISSN 0027-8424. PMC 3956155. PMID 24567380. http://www.pnas.org/lookup/doi/10.1073/pnas.1315684111.
  13. “NHK仙台放送局 | 被災地からの声”. NHK仙台放送局 | 被災地からの声. 2021年3月11日閲覧。
  14. Chung, Yun-Shan; Harada, Kouji H.; Igari, Keiko; Ishizuka, Jinrou; Koizumi, Akio (2020-12). “The incidence of diabetes among the non-diabetic residents in Kawauchi village, Fukushima, who experienced evacuation after the 2011 Fukushima Daiichi nuclear power plant disaster” (英語). Environmental Health and Preventive Medicine 25 (1): 13. doi:10.1186/s12199-020-00852-x. ISSN 1342-078X. PMC 7210664. PMID 32384869. https://environhealthprevmed.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12199-020-00852-x.
  15. Cui, Limeng; Orita, Makiko; Taira, Yasuyuki; Takamura, Noboru (2020-09-15). Mousseau, Tim A.. ed. “Radiocesium concentrations in mushrooms collected in Kawauchi Village five to eight years after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident” (英語). PLOS ONE 15 (9): e0239296. doi:10.1371/journal.pone.0239296. ISSN 1932-6203. PMC 7491737. PMID 32931520. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0239296.

関連項目

  • 福島県
  • 双葉郡
  • 東京電力福島第一原子力発電所事故
  • 大滝根山
  • モリアオガエル
  • 草野心平
  • 天山文庫

外部リンク

  • 公式ウェブサイト
  • 川内村 (@kawauchi_v) – X(旧Twitter)
  • 川内村 (kawauchi.vill) – Facebook
  • 川内村 – YouTubeチャンネル

川内村についてのクイズ

川内村は、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受けた年は何年か?

川内村は、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受け、全村避難を余儀なくされました。事故発生後の2011年3月17日以降、村の住民は安全な地域に避難することを強いられ、村の機能は一時的に失われました。全村避難の影響は大きく、村の生活は一変しましたが、徐々に復興が進んでおり、帰還する住民も増えています。この事故は、川内村の歴史において重要な出来事であり、現在も復興への取り組みが続いています。

川内村を囲む山々の中で、最高峰はどれか?

川内村は阿武隈高地の中央部に位置し、その中で大滝根山(標高1,193メートル)が最高峰です。大滝根山は村の東側に位置し、村の自然環境と地形形成に大きく寄与しています。この山は、川内村を囲む多様な地形の一部であり、豊かな生態系を支える重要な土地でもあります。山岳信仰の対象にもなっており、観光地としても注目されています。

川内村の主な産業は何か?

川内村の基幹産業は農林業です。特に、米、葉タバコ、畜産、そして高冷地野菜などが栽培されており、地域の経済を支えています。農業は専業農家が減少する中、今では高齢者や女性が主体となって行われています。また、林業も村の重要な産業となっていますが、木材価格の低迷によって生産量は減少傾向にあるため、地域振興のためには産業構造の見直しが必要です。

川内村の気候はどのような特徴があるか?

川内村は大陸性気候に属し、寒暖の差が大きいのが特徴です。夏は冷涼で、真夏日がある一方で、朝晩は気温が下がり、日較差が大きくなります。冬は厳寒で、最低気温が-10℃を下回ることもあるため、地域の環境には厳しい自然条件が影響を与えています。このような気候は農業や森林の生態系にも影響を及ぼし、特に作物の生育や動植物の生息にも関わっています。